たとえアナタが振り向いてくれなくても

「夏は暑いもの」と決まっておりまするが、
それでも毎年のごとく夏になれば、
暑さを伝えるニュースが各ニュース番組で取り上げられます。
また、近年地球温暖化が叫ばれておりますゆえ、
年々暑くなってきているようにますます感じるので御座います。

そう言えば、ワタクシの幼い頃、
幼い頃と申しますれば何十年も前になりまするが、
その頃には「クーラー」などというものは家庭にはございませんでした。
まあ、「扇風機」が一家に一台あればよく、
あとは団扇、扇子などをあおいで涼を取っていたもので御座いました。
そういった次第で御座いますから、
当時はワタクシの家庭では、扇風機が夏場限定の
「我が家のアイドル」で御座いました。

クラスのマドンナを振り向かせようとする男子学生のごとく、
「扇風機よ、吾に振り向け!」
とばかりに家族中で扇風機のご機嫌を伺い、
「涼風」という、マドンナの微笑みを如何に独占するかという
血みどろの家族間抗争が茶の間で繰り広げられるのが
我が家の夏の風物詩で御座いました。

無論、この醜い最終戦争にて勝利を収めるのは、
扇風機購入のスポンサーである父では御座いましたが、
そこは一家の長、父は自分ひとりだけが幸せになるのを良しとしない
心の広いトコロを見せてくれたもので
扇風機の「首振り機能」を最大限に活用し
家族全員が涼を取れるように「利益配分」をしてくれたもので御座いました。
ええ、マドンナは皆に微笑んでこそ、マドンナなので御座います。

そんな父でも、唯一、扇風機を独占して、
決して他人に譲らないトキが御座いました。
ハイ、そのトキとは「お風呂上り」で御座います。

グンゼの純白ブリーフのみを身にまとって扇風機を独占する父に対して
この時ばかりは誰も抗うこと、かないませぬ。
ワタクシはただただ、父の湯上りの汗が引くのを待つだけで御座いました。

さて、時は幾度となく流れ、「クーラー」なる新たなヒロインの登場により、
扇風機は我が家の片隅に追いやられることに相成ったのでございまするが、
それでも引退とは参りませんで、「年増芸者」とからかわれながらも、
しばらくは夏場の我が家のお座敷を勤めてまいったので御座います。

なんとなく慌しい日常に追われまして、
ここ数年姿を見ない扇風機の事など、
気にも留めていなかったのでございまするが、
つい先日、湯上りの父が身にまとった卸したての純白ブリーフのまばゆさが、
ワタクシの記憶の扉を押し広げたので御座います。

「あの扇風機、最近見ないな。どうしたのだろう?」

この疑問を母にぶつけると、悲しい事実を伝える答えが御座いました。

あの扇風機は昨年の秋の
ある晴れた昼下がりに
「家電回収車」のトラックの荷台に揺られながら、
我が家を去っていったそうで御座います。
彼女が悲しそうな瞳をしていたかどうかは定かではございませんが、
長年の思い入れも御座いまして、ワタクシは物悲しい気持ちになり、
図らずも「ドナドナ」の一節を口ずさんでおりますと、
母の現実的な一言はワタクシの感傷を微塵に打ち砕いてくれたので御座います。

「子牛はいくらかのお金になったはずだけど、
古い扇風機は逆に回収費って名目で、2,000円も取られたのよ」

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 0

この記事へのコメント

この記事へのトラックバック